2025/1/18〜21
※ネタバレ注意!!!!!!!
1/18(土)
第一話 今は亡き星の光も
児童養護施設が舞台!
24歳で2年目の職員の北沢春菜が語り手 「わたし」の一人称叙述だが、葉子の回想部分は三人称的に書かれている。
児童養護施設が舞台だからか、児童文学・YAっぽい読みやすい文章。気取りがない。
名探偵役は児童相談所の海王という中年男か。
めっちゃサクサク進むな。一瞬で解決した。
心配な養護児童との関わり、というかなり繊細な問題をミステリとして扱い推理するなんてどうなんだ……とちょっと苦笑いしてしまったが、最終的には児童と大人の関係についての小説として誠実だと感じられたので良かった。児相と児童の面談の内容を第三者である養護施設職員が聞き出すことの業務上のプライバシー遵守に関してもしっかり配慮があって安心できる。
どの「物語」を信じるかは、それぞれの自由。推理とは解釈であり、あくまで人が納得してより良く生きることが出来るためにあるものである。海王は、葉子の苦しみを和らげる手助けをするために、自分の推理を伝えた。
「少しだけ不思議を残しておいた方が、全てを明らかにしてしまうより落ち着ける、そんな時もある」 p.67
今はもう無い星(ひと)でも、その光がこちらに届いているのならば、それはまだあり続けているのと同じである。
いい話だった!
謎の魅力や推理の納得度がどうと言うより、子どもに寄り添うことが芯にある話だから好き。施設の大人たちが子供になんとか寄り添おうとして頑張っている優しい人たちで良かった…… 哀しい話だけれど過去の事件(歴史ミステリ?)として現在に生きる者が前向きな希望を持てる話で後味は悪くない。
虚弱児施設というのがあったんだ、知らなかった。保育関連の知識まで身につく!(ミステリとしては専門知識が必要な推理はややズルいのだろうけど)
短編としてさくっとコンパクトにまとまっている点も好印象。
未解決の蘇り?の謎はあとで回収されるのだろうか。
最後の、海を背景に消えていく海王さん、マジで神様みたいで笑った。なんなんだこの人は。完璧超人すぎてぜんぜん人間味が見えない。
1/19(日)
第二話 滅びの指輪
小6まで戸籍が無かった、現高3の浅田優姫。
『虎に翼』でも観た、離婚や親権などの家庭裁判所案件の知識が語られる。
え〜っ! 大胆な真相だ……
酷い生育環境を生きてきた戸籍のなかった少女、というこれまたシリアスな設定を下地にして、外連味のあるトリックをやるとは思わないじゃん。。物語のトーンをどう読めばいいんだ。児童養護施設という設定が、ミステリとしての意外性には貢献しているが、納得度は下げている? かといって単にミステリのための都合のいい舞台装置として利用している感じはなくて、ちゃんと子供たちとそれを取り巻く大人たちの生を誠実に描こうとしていると感じる。
公立小学校の土曜授業が廃止されたのは平成14年から。私立はまだやってるところもあった。毎回こういうプチ・教育保育豆知識を推理に絡めてくるのか。
うわぁ重いって!! 父親からの性的虐待……
本当の浅田優姫さんのほうが小6の時点で児相や養護施設のことなどに詳し過ぎるし、逞し過ぎる。さすがに現実的に我が子を別の戸籍のない子供と入れ替えるなんてあり得ないだろうと思うけれど、それを言ったら、我が子に性的虐待をすることのほうがよほど「あり得ない」。でも残念ながら「現実的」に存在してしまうものなんだよな。
「真実というのは人を幸せにするものだ、とわたしは考えています」 p.123
互いの辛い経験を伝え合い、わかり合えたと思えたことが、二人の心のバランスを保ち、自分を否定せずに自分の物語を確認し、そして全く新たな物語を創り出すことにつながったのでしょう。 p.124
この作品にとって推理とは、ひとが幸せに生きるための新たな物語を創り出すことなんだな。
心の傷を抱えた児童同士が共通点を見い出し合うことでうまく自分を確立して生きていけるようになること。よく知らないけど、児童の発達心理学的にも裏付けがありそうだ。
あの頃の浅田優姫は惨めなんかじゃなかった。薄汚れていたけれど、今と変わらず、いえ、もしかしたら今よりもっと誇り高く見えた。あたしは彼女が大好きで、彼女の昔を引き受けていることはあたしのささやかな誇りでもあったんです。 p.120
とても可哀想な子どもたちの話だけれど、あまりにもフィクショナルな少女ふたりの掛け替えのない入れ替わり関係が、シスターフッド……百合としても良いし、最終的には、つらい境遇の子どもが幸せに生きていけるようにするために、周りの大人はどう関わって寄り添って助けて上げるべきなのか、という大人の責務の話になるのがいい。
七海学園は鉄道網などの立地的にも、いろいろ抱えた子がふらっと最後に流れ着く場所みたいになってるのか。七海出身じゃない被虐待児ふたりが七海の廃屋で運命的に出会ってるんですけど。
ええっ!? オチこわいんですけど!! これどっちだ? あくまで偽の父親を脅迫して復讐しようとしているのを敢えて「恋人」と称して同級生の前で仲睦まじそうに振る舞っているのか、それとも本当に恋人なのか…… だから幸せってこと? 現優姫が心配していたのはこのことだったのか。さすがに前者だと信じたいが……
情報通で噂好きの中2の亜紀は使い勝手のいいトリックスター的な立ち位置だけど、後に彼女メインの回もあるのかな。
1/20(月)
第三話 血文字の短冊
春菜の学友、育ちのいい野中佳音さんいいね
海王さん娘ふたりいるんだ。50歳近いのかな
これまでも少し登場していた中1の沙羅 優しい父親に嫌われているんじゃないかとショックを受ける
児童養護施設と児童相談所が、子どもという「謎」に対するワトソンとホームズの関係ってことだよな。施設で何か困り事があって手に負えないときに児相に相談して良いアドバイスがないか訊く。
突然のショスタコーヴィッチの交響曲
ウランってすごい名前だと思ったら安藤藍ね。なるほど。双子の兄が安藤勤=アトム。おもしろい
お〜今回は海王さんの推理をわざと春菜がはしょって、枠物語の外側の佳音に解いてみろと挑戦させるパターンか。(児童たちの名前ガッツリ出しちゃってますけど守秘義務は〜!?)
海王さんの推理ばかりだと流石にくどくなってくるからかな。いいと思う
トリックの核心は父親がアメリカ人であることを隠していた、という信頼できない語り手による叙述トリック。序盤に意味深に出てきた三単現のsやら「アイヘイトユー」やらが伏線として回収される、かなりお行儀のいい日常の謎。これもウミガメとしていけそう
竹林に入って悩みを短冊に書いた謎の子どもは、第一話で葉子が玲弥に見間違えた謎の少女と同じ?
第四話 夏期転住
お〜やった! 佳音さん続投だ
ハンドル握ると豹変とかまーた素朴な設定を……
施設の卒園生同士での結婚。在園中は特に意識してなかったが、4歳年上の俊樹のほうがOBとして顔を出しているときに、高3で最年長だった美香と惹かれ合い、ふたりとも卒園して社会人同士になってから付き合い出したと。なんかリアルだな……ワクワクしてきた。
夏の高原で出会った謎の白ワンピース少女だ!! 小松崎直(なお)。年齢的に例の謎の少女とだいたい一致しそう
俊樹の名を入れた回文 「愛しき君のみ聞きし問い」 こんなん好きになっちゃうやろ〜! めちゃエモくて良い……
泳ぎたがらないのとか、足が速いのとか、男子説あるな。ショートカットだし。だから先生に訊いてもそんな女の子いないと言われたのでは。
てか、実誠学園の生徒っぽいな。だったら夏期転住のあと消えたのも納得できる。賄いのおばさんが両学園を担当しているのも伏線だ。みどり先生が直に普通に接していたのはなぜだろう。でもこの先生しかふたりに会ってないから、賄いのおばさんから直の事情を聞いていたのかな。
また男女の双子とか? インドア派とアウトドア派の。小穴直と小松崎直の謎。
山荘脇の非常階段の踊り場から増水した川へ飛び込んだのを消えたと錯覚してそう。
やっぱり雨が降った!
実誠学園の黄色いタンクトップと旗はカモフラージュか
推理パートに児童福祉法がこう何度も引用されるミステリあんまないぞ
だいたい予想通りだった。実誠学園長がもともと床屋なのもそういうことか〜
児童福祉のプロの大人たちが協力して、悪い大人・政治家から子どもを守るために陰謀を企んでいた。アツい真相
単に子どもを守り通すだけじゃなく、法的にギリ正当な手続きを踏む条件も満たしているとして考えている点がポイントかな。
あ、海王さんから聴いたんじゃなくて春菜が自分で推理したのか。
ペネロピ・ファーマー『夏の小鳥たち』 ケストナーといい、ちょくちょく実在の本が出てくる。
とても好きな話だった。ひと夏の幻の美少年。エモいし、根底には児童福祉に携わる大人たちの尊い働きがあるのがいい。
1/21(火)
第五話 裏庭
うわ〜! めちゃくちゃ良い高校生たちのヘテロ四角関係じゃないか…… 明→加奈子の感情と行動が味わい深すぎる…… モテ男が、幼い頃から姉のように良くしてくれた2個上の女の子にずっと片想いしていて、その少女の恋路を密かに応援するために自分が悪者になる……健気すぎるだろ!! イケメンが健気に片想いするやつに弱いんだよわたしは!!! 幸せになってくれ……
都合上、ミラーのように向こう側にも明とだいたい似た状況の健気な片想い女子がいるのがちょっとウケるけどw
加奈子の、自分は両親に無視されて弟だけが可愛がられるという悲惨な家庭環境を考えても、弟のような存在の明はどれほど複雑でそれでも大切に想っていることか。
再入園でプレッシャーがかかっている加奈子を優しく支えてくれた杉山くんもいい奴だし……
にしても、新聞への一通の頭書によって、県や児相や全施設を巻き込んだ騒動になることのリアリティとスリリングさには変な汗が出た。まぁ、子どもの人権が第一だからね…… 恋愛に厳しすぎる施設がちゃんと見直されるきっかけになったのならよかったよ。
けっきょく、加奈子が10年前に見たという裏庭から来た少女の謎はやはり持ち越されるようだ。最終話で明かされることに期待。亜紀メイン回になるのかなぁ
第六話 暗闇の天使
トンネル内で囁きかける天使の声、という10年隔たった2つの事件をまったく別のトリックで解き明かす。珍しく2つともオチは察しがついたけれども、やはり謎の美少女はその間にも登場して持ち越される。
トランスジェンダーをミステリのトリックに使うのは、なかなか危ういものではある。しかも、MtFで声がなぜか女性のようである、という設定で、それはむしろFtMっぽさも感じる。「性同一性障害」という語が用いられている点でも時代を感じる。
p.325辺りの春菜の児童や仕事への矜持の独白や、p.337の海王さんの考え方の記述はとてもよかった。
最後にトンネルから出てきた女子たちが泣きながら仲直りして手を繋いで帰っていくところも好き。小6とはいえ小学生の喧嘩と仲直りってこんなもんだよね。
佳音さんが前座とはいえ第一の謎を解き明かす探偵役を果たしていたのもよかった。
謎の少女は海王さんに関係ありそうだと予想。なぜなら海王さんがこれまであまりにも超然とした完璧な善人の名探偵であり、逆に不自然なくらい掘り下げられていないから。
でも、確かに児童福祉関係にはこういう、めちゃくちゃ苦労してきたんだろうけどそんなことおくびにも出さずにいつも明るくにこやかに振る舞って本当に子供想いで責任感も優しさもある完璧人間みたいな職員いるんだよな…… あながちフィクションの中だけの理想的な造形だと切り捨てられないリアリティがあるのがおそろしいところ。
だから、児童福祉に携わる大人として尊敬してもいるし、あまりにも完璧な名探偵だからといって鼻につく感じがないのだと思う。
第七話 七つの海を照らす星
マジで学園七不思議をきれいにこれまでの計6話で解き明かしてきたのか……
えっまさか謎の少女の正体は佳音さん? 確かにトンネルの謎に興味を持って現場検証しようとしていた、とかは一致するな。葉子が見たという蘇った先輩もそれっぽい。まさか七海出身なのか。
うわーマジか…… ひと夏の美少女/美少年がまた反転した。佳音さんが運動神経いい設定も伏線だったか。じゃあ前話でトンネルの謎を解いたのは彼女が張本人だったからか。
お〜春菜の就職面接の日に車で送ってもらっていたのも、最初の謎に繋がるのか……芸術的だ
直が好きだという小説『夏の小鳥たち』を言い当てられたのも本人だったから。
可哀想。マジでこの悪役だけはとびっきりクソな大人だ。
これまで七海学園の児童たちに寄り添って謎を解いてきたけれど、最後にこうして、そんな学園にすら入らなかった悲惨な境遇にいた子どもの話に収束させて、その上で、前向きで明るい幸せな物語にしている……
そういや夏期転住の回だけ実は海王さんが推理してないのか。それは語られていた事件の登場人物だったから。
専攻でもないのに児童福祉論の講座を最前列で熱心に聴講してるところから仲良くなったって言ってたな〜そういや。。
わたしは、何か気のきいた応答をしなくっちゃ、と焦ったが、結局「へへっ」という間の抜けた照れ笑いが出ただけだった。 p.376
泣ける
あの爆走エピソードまでも泣ける話になるなんて思ってないじゃんかよぉ!!
p.377 そうか、そうだよなぁ。夏期転住回で春菜が推理をしていたのは佳音に向けて。つまり佳音にしてみれば、あの頃の自分がいかに大人たちに福祉と法律によって守られていたのかを痛感させられる体験だったのか…… 推理パートそのものの意味がこうしてあとから新しく浮かび上がるのすごいな。
p.381「いやぁ、本当にいい子でしたねえ」
決め台詞が決まりすぎている。泣く
メモ取らずに頭だけで回文作るのムズイだろ
まさかの作者ペンネ―ムの伏線回収と、メタ小説目配せ 児童たちの名前をいじったから守秘義務に反しないって? それは色々と苦しくないか。だいぶ具体的な名前をトリックに使ってるし。
あと、幼い頃の佳音を救った児相の女性職員って意味深だけど誰なんだろう。次作に出てくるのかな。ワンチャン作者の分身か?とも思った。
おわり!!!
いや~~面白かった。完成度高いっすね……
児童養護施設のことは門外漢だが、むかし児童福祉系の仕事をしていたのもあり、単なるミステリという以上に、自分にとって迫真性のある題材だったことが、こんなにも楽しめた大きな要因であることは間違いない。それを棚に上げても万人にオススメできる名作ミステリだと思うけれど。
児童養護施設を舞台にしているということもあり、児童文学っぽさが強かったのも自分好みだった理由に挙げられる。といっても、子どもが主人公ではなくて、あくまでそこで働く大人を語り手として、大人目線で子どものことを想って寄り添っていく姿勢が物語に通底していた。しかもそれがミステリとして、子どもに関する謎を提示して真相を解明する構造にまでしっかりと組み込まれているのがお見事。推理して真相を解き明かすことは、ひとが幸せに生きるための「物語」を見つけ出すことである、という崇高な思想が何度も語られ、実際の事件の推理でもそれが鮮やかに体現されていた。
主人公の新人保育士・春奈が語り手=ワトソン役であり、名探偵役は児童相談所の海王というおじさん。正直、海王さんに関しては、理想的な「いい人」過ぎて、まだそれ以上の人間像が掴めていない。神様なんじゃないかと疑っている。次作では掘り下げられるんだろうか。若かりし頃の挫折談とか読みたい。(海王さんの神さまっぽさの1%くらいは、作者の筆名「七河迦南」の「迦」の仏っぽさから来ているのではないかと気付いた。お釈迦さまでしか見たことない字!!)
これはいわゆる「青春ミステリ」ではないよな。中高生の色恋沙汰も出てくるとはいえ、小学生たちもいるので、やはり「児童文学」っぽさのほうが強い。
最終話での凄まじい伏線回収にはビビった。気付けなかったな~~悔しい。佳音さんがそもそもサブキャラとして最初から魅力的で好きだったのが敗因か。悔いなし! これほどお手本のような大振りのフーダニット伏線回収どんでん返しあるんだろうか。あるかぁ……
やっぱり、ミステリを楽しむうえで重要なのはトリックや推理の質の高さよりも、まず登場人物/キャラクターを好きになれるかどうかだと思う。名探偵の海王さんは好きでも嫌いでもない(神様のようなので)けれど、主人公の春菜はまぁ好きだし、何より毎話ごとに登場する七海学園の子どもたちはみんな大好きだ。すくすく育って幸せになってくれ。
だから、やはり私にとって本作は児童文学のように「子ども」が主役の物語だから、苦手意識のあるミステリでも受け入れられたんだと思う。パスワードシリーズやはやみねかおるなどの児童ミステリ育ちなので……
ミステリの苦手さよりも児童文学の好きさが優ったといえる。児童文学ミステリを漁るか・・・
2話と4話が特に好きだったかな~~