「生命線」「最後の恋」「女王人形」「チャック・モール」カルロス・フエンテス

 フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇 (岩波文庫)

フエンテス短篇集 アウラ・純な魂 他四篇』の他四篇を読んだ。

 

 

生命線

銃殺されるのを待つだけだった革命軍兵士の4人が監獄を脱出し、再び捕らえられ死ぬ


リーダー格で主人公のヘルバシオ・ポーラの感情の動きが目まぐるしく身につまされる。

こういうザ・男の血なま臭く乾いた話を読むのは久しぶりな気がする。ルルフォ『燃える平原』とか

各人の内面の吐露が〈〉で表されていて、独特な味わい・切迫感を醸し出している。

短いなかで4人のキャラを立たせている。


p.37

できれば、仲間のひとりひとりに代わって俺が牢獄から中庭へ歩いてゆきたかったんだが、そうはさせてくれなかった。俺は貧乏くじを引かされたんだ。

 

p.40

川底は血まみれの軍帽の羽飾りで干上がり、自分では気づかずに生贄の儀式を行っている人々のざわめきが聞こえ、旱魃と荒廃が作りだした多島海の島々を思わせる山々が連なっている。

「川底は血まみれの軍帽の羽飾りで干上がり」って? 川に兵士の死体が散乱している様子を婉曲的に表したのか、マジで軍帽の羽飾りで干上がったのか……
その次の生贄の儀式もよくわからない

 

p.45

「誰が勝つかなんてわかりっこない。すべてが勝つんだよ、ペドロ。誰も彼も生きているが、生き延びたやつが勝ちだ。この国じゃ、全員生き延びているだろう。さあ、立て、立つんだ」

そりゃ国民は生者だけで構成されてますけど……


p.46

頼むから足かせをしてくれ、でないとごろごろ転がり落ちてしまう。何かに縛られている方がいいんだ。生まれ落ちた瞬間から縛られているが、それが俺に科せられた逃れようのない罰なんだ。

 

 


最後の恋

子供の浜辺での遊び
やけに「無時間的」を強調するな…


若さと老い、清潔と猥雑 を前面に押し出したバカンス
バカンスの最中だけ若い女の子を雇って関係を持っている?
しかし雇った彼女は若くて健康な肉体の男と楽しそうにイチャイチャしている。その様子を嫉妬気味に観察し、2人の会話を妄想する中年男性
ウエルベックみたいだ


p.72

彼女は後でいろいろ説明するだろう。どういう説明をするんだろう。リリアは説明をするだろうか。ハビエルなら、リリアに説明してくれと言うだろうか。リリアはハビエルに説明するだろうか。

なんかいきなり変な狙った文章になって笑う。でもここがこの短篇ではいちばん好き


p.73

すべての人間がそういう醜い行いをしていると言うのか、そんなばかな! 彼は苦々しげに顔を歪めると、そう呟いた。誰もがそういうことをしていると言うのなら、わしの権力、わしの罪の意識が無意味なものになってしまうではないか。

あ、そういう。進んで悪者・加害者でありたいわけね。余計にキモいなぁ


中年ですらなくて老人なのか……
キモい爺さんがちょっと感傷的になる誰得な話だった。
なんか最後のほうは田山花袋『蒲団』みたいになってて笑った。
何が良いのかわからない

 


女王人形

 

pp.84-85

足音は庭園に敷き詰められた砂利の上を駆けてくると、僕の背後で立ち止まったが、それがアミラミアだった。彼女が何もしなかったら、きっと気づかなかったはずだが、あの午後、彼女はいたずら心を起こして、頬をぷーっとふくらませると、眉をしかめてタンポポの冠毛をふっと吹きかけて僕の耳をくすぐった。

なんだこのファンタジックで都合が良すぎる少女!? 7歳か……

 


イメージは『Summer Pockets』の紬

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やっぱり客体化された女性像をどの短篇でも扱ってるよなぁ
「純な魂」は女性主人公だけど、あれもやっぱり魔性の妹として客体化してる
(彼女を語り手に設定したのはその魔性を効果的に演出するため)

 

 


タイトルから察してはいたが、やっぱりkey作品のサブヒロインルートみたいな話(シナリオ)だった。(『サクラノ詩』にもこんなヤツいたな)
それにゴシックホラー味をふりかけた感じ。
フエンテスだーまえだった……?

 


チャック・モール

再読。『20世紀ラテンアメリカ短篇選』でかつて読んだことがある。
やっぱり、王道のホラー・怪談だなぁと思う以外に特に感慨はない。(そもそもほとんどホラーを読んだことがないのに「王道」なんて分かりようがないが、そうした素人が何となく「王道のホラー」だと感ずるところのもの、と受け取ってほしい)

女性が一切出てこないのが珍しい(「生命線」もそうか)
何だかんだで客体化された女性が出てこないと(すなわち都合よく消費できる女性が出てこないと)楽しめないのだな、と思い知らされて悩ましい。一丁前に悩んでいる素振りを見せずに開き直ればいいのかもしれないが。


p.12

キリスト教を供犠と典礼という熱情的で血なまぐさい側面から眺めれば、これはインディオたちの宗教が装いを変えてそのまま自然に拡張されたものだと考えられるだろう。だから、慈悲だの、愛だの、右の頬を打たれれば、左の頬を差し出せといったものがまったく無視されるんだ。メキシコでは万事、この調子だよ。人を信じようとすれば、その人間を殺さなければならないというわけさ。

(メキシコの)宗教の本質は血なまぐさい暴力性、ってこと?

 

p.23

僕はいまだに子供っぽい考えから抜けきれないでいるのだ。誰が言った言葉か思い出せないが、幼年時代というのは歳月によって食い荒らされた果実なのだ。僕は気がついてなかったが……。

 

 

訳者(木村榮一さん)による解説

 

pp.222-223

ここで「チャック・モール」の主人公フェリベルトを思い返してみると、彼はインディオが作った民芸品や古い時代の遺物や石像を収集し、自らインディオの文化のよき理解者をもって任じているが、これが真の理解でないことは言うまでもない。相互理解、それも対立する文化の相互理解というのは、民芸品や骨董品、古代の遺物をおっとり優雅に鑑賞するといった類のものではない。相手の文化を認めることが、時には自らがよって立っている文化的基盤を失うことになりかねないのである。その意味では、異文化間の相互理解というのは、人を死ぬか生きるかのぎりぎりの瀬戸際まで追いつめることもある。

なるほど〜。単なるゴシックホラーとか言って申し訳ありませんでした。
理解者になったつもりで「おっとり優雅に鑑賞」って、まんま海外文学を読んでいる自分にも刺さるよなぁ。勉強せねば。
(ただ、こうして明確な「作者からの立派なメッセージ」に小説を還元させてしまうのも考えもので、楽しむための読書と、学ぶための読書のバランス──両者の不可分性をめぐる態度が難しいところだ)


フエンテスバルザック信者なのね。リョサがフローベリアンだったように。
ラテアメ勢を読んでいくと結局フランス文学に行き着くなぁ

 

えっ、「生命線」は『澄みわたる大地』からの、「最後の恋」は『アルテミオ・クルスの死』からの抜粋なの!?
マジか、あのキモいおっさん、アルテミオ・クルスだったのか……

 

「女王人形」のアミラミアなど、フエンテスの作品によく登場する客体化された怪しく魅力的な女性像は、単なるヒロインではなく、エーリッヒ・ノイマンの言うところの「太母」であり、メキシコの根であるとかなんとか。ふーん

 

 

というわけで1冊読み終えたわけだが、「純な魂」がダントツで面白く好みだった。「アウラ」も結構面白かった。 他は微妙だったが、そのうち2作は後書きで「実は長篇の一部なんです」と知らされる罠。それじゃつまらなくても文句言えないやないかーい!

でも、『アルテミオ・クルスの死』を読むモチベが正直下がったな……あんなキモいおっさんに長々付き合いきれねえよ……

 

丸々1冊フエンテス読んだのは初だったが、どうだろう……うーん……「純な魂」は好きだけど全体としてはゴシック小説好きじゃないとキツいかも。文章も、作品ごとに仕掛けてくることはあれど、文体自体にそこまで魅力があるわけではないし。

1冊読んで判断するのは時期尚早とは言え、優先順位は下がったかもしれない。

 

 

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なんか岩波文庫がアマゾンの検索で出てこないんだけどなぜ!?

こないだは出たのに。

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ある島の可能性 (河出文庫)

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