邦訳があるアレナスのうちで最高傑作だと噂の短篇「物語の終わり」をやっと読んだ。
岩波書店『世界文学のフロンティア 5「私の謎」』収録。杉浦勉訳
(本書ではレイナルド・アレーナス表記)
ものすごいノスタルジー(文中でも言ってる)、ものすごく切実な語りかけ小説だ。
ウォレスや円城塔の短編くらい読みにくい。方向性はまるで違うけど。
あ、このうわごと感──それでいてこれ以上なく真剣に丁寧にこちらに語りかけてくる感じ──は、桜井晴也にちょっと似てるかも。
おわった。
20ページ読むのに約2時間半かかった。映画かよ
間違いなく既読のアレナスのなかでいちばん読みにくい。
語りや話の構造がフエンテス「純な魂」に似ているが、あっちはこんなに読みにくくない。
読点が多用されるため一文が長く、ストーリーと呼べるものがほぼ存在せず、「きみ」の位相や素性や「ぼく」との関係もはっきりせず、抽象的なことと具体的なことの語りが渾然一体になっており、ひじょーーーに読みにくい。小説というより散文詩に近いと思う。アレナスじゃなかったら多分途中で本を投げ出してたと思う。
レイナルド・アレナスが好きな理由、色々なレイヤーがあるんだけれども万人受けする作品って意味だとアンソロジー『世界文学のフロンティア 私の謎』所収の「物語の終わり」一択なのでそれをおすすめしたい……。https://t.co/LsxKVW3z89
— Mamoru Tanibayashi (@notfromSakhalin) 2021年5月24日
どうやら僕とは違うものを読んでいるっぽい
アレナス入門なら普通に『めくるめく世界』か、『夜になる前に』(未読だけど)を薦めるかな。『襲撃』でもいいと思う。『夜明け前のセレスティーノ』は前衛的な小説に耐性がないとびっくりするとは思う。でも本作よりは遥かに読みやすいでしょう
(『ハバナへの旅』はこれから読みますが多分1冊目向きではない)
「きみ」が歩いたりひとを見たり溶け込もうとする様子が描写される舞台は、ハバナとニューヨークの両方が幻想的に混じり合っているということでいいのかな。マジで次の文がどう来るか全く気が抜けないほど前衛的で難しかった。ベケットの小説3部作ってこんな感じなのかな。うわごとがずっと続く。
後半の街歩き(から樹木が街を侵略する描写)のくだりは土地や通り名の固有名詞が多かったのもあってピンとこなかったが、「ザ・サウザーモスト・ポイント・イン・USA」での語りにはブワッとものすごい力で持っていかれて泣きそうになるくだりが幾つかあった。
孤独、ノスタルジー、思い出──好きなように呼ぶがいい──、そのすべてをぼくは感じる、そのすべてをぼくは苦しむ、けれど同時に、そのすべてをぼくは楽しむ。でもとりわけ、ぼくがここまで来ることになったのは、勝利の感情を味わうという気持ち、確信のせいだ……。 p.269
だけれど、いまだ底知れない憎しみをもたないひとをなぐさめるのに、どんな理屈を持ち出せばよいのだろう? ひとりの人間はどうやって生き残るのだろう、かれが最も苦しみ、もはやそこに存在しないという場所が、まだかれを支えるたったひとつの場所である時には? ほら──ぼくはこだわった、だってぼくは頑固だから、分かっているだろう──、今はじめてぼくたちは人間になった、つまり、ぼくたちは憎んだり、思いのまま傷つけたりできるんだ、しかもサトウキビを刈る必要もなく……。 p.274
ここがいちばんすき。
序盤文のわけわからなさに困惑して、中盤でこれはめちゃくちゃヤバい!良い!一生読んでいきたい!と思い、終盤にかけてまたちょっとついていけなくなった。
すげぇ叙情的・感傷的なんだけど、前衛的・難解過ぎてそこまで辿り着けないかんじが悔しい。
訳者によると「現代スペイン語小説の最高の成果のひとつ」とある。原文も読めるようになりたい
一生読んでいきたい