『ダンス・フレンド』カミラ・チェスター(2022)
2025/5/23
母に薦められて読んだ。
うまく喋れないけどダンスが好きな11歳の男の子が主人公の児童文学…… 設定の時点で好きに決まっている。
しかも夏休みのボーイミーツガールだし
「やっほお!」
女の子の声がした、と思ったら、庭のフェンスの上に笑顔がひょこっと現れ、また下に消えていった。 p.7
「あたし、リカ」
とんだタイミングで、女の子が手をふった。からだがフェンスの下に消えたあとも、長い黒髪が、びっくりマークみたいに宙に残った。 p.8
文章もいい。比喩表現が初っ端から効いている
家族以外の前では一切喋れないって、場面緘黙というより全緘黙では……ないんだ。
お姉ちゃんのソフィは、本を読むと、登場人物と友だちになれるからって、ぼくが学校に上がる前から読み書きを教えてくれた。
でも、登場人物と友だちになればいいなんていってられるのは、ソフィには話せる友だちがいっぱいいるからだ。 p.20
たしかに……
「ああ、でもリカには知っといてもらわなきゃ。おまえも同じぐらいクールだってことを。口に出さないってだけでね」 p.32
兄ちゃんも姉ちゃんもレオに優しくて泣ける
ねえ、十二歳になるってすごくない? だから、盛大にお祝いしなくっちゃ。 p.47
純粋さにやられる
ティファニーにはいなくなってほしいけど、ダンスが理由であってほしくない。 p.61
レオの中の自分勝手さと、ダンスへの愛の葛藤
仕方ないんだけど、レオがネガティブ思考すぎて、すぐに悪い方へひとりで妄想を進めていくのがちょっとおもしろい。
ソフィ憧れの物理学者マイトナーってマイトネリウムの由来の人か。知らんかった
読書って、先に進む一方じゃないと思う。水泳といっしょで、深いところで泳げるようになってからでも、浅瀬でバシャバシャやりたくなるものなんだ。 p.107
だいたいの人は、しんとしていると気づまりになって、なにかしゃべろうとする。
でも、ぼくはちがう。沈黙には包みこむような優しさがあって、まるで空気に抱かれているような気分になれる。 p.108
p.131 大好きな友だちに初めて自分の声を聴かせる手段が、自分の朗読を録音したのを、イヤホン片方ずつ共有して一緒に聴くシチュエーションなの良すぎる。
レオが話せるようになるためにも、リカが読めるようになるためにも、この録音-朗読鑑賞は一石二鳥で有効だ。何よりふたりの仲が今まで以上に縮まるのが最高にエモーショナル。
パッチの存在もいいんだよなぁ 犬好きにはたまらない、最高の犬小説でもある
おわり
すばらしい小説だった! 何度かボロ泣きした
主人公のレオは緘黙症に悩んでいるとはいえ、家族の理解はあり、特に弟想いの兄と姉が全面的にサポートしてくれている、かなり恵まれた環境。そんな中、とても気が合う最高の親友が隣に引っ越してきて、理解のあるリカさん……のようではないかと、そのあまりの「やさしい世界」っぷりにかえって、現実の緘黙症に悩む子どもが読んで絶望するんじゃないかとも心配にはなった。あるいは、クラスメイトのステファニーたちなど、登場人物の善悪がハッキリして図式的ではある。
しかし、物語終盤には、リカの秘密をレオが勝手に兄姉に漏らしてしまい、約束を破り友達を傷つけたことに深く後悔する展開がある。そのことで、この作品は、やさしい世界のなかで、ハンディキャップを負った子どもが、もがきながらもまずは最初の一歩を踏み出すさまを描いたものとして、素晴らしいと感じるようになった。
ラストのダンス発表会での観客を巻き込んだディスコ・シーンはカーニバル的な多幸感と祝祭感があふれている名シーン。"Disco Inferno" を流しながら読んだ。
うまく言葉を喋れない者と、うまく読み書きできない者が、互いの欠点を補い合いながら支え合って最高の親友となる。ちょっと『シラノ・ド・ベルジュラック』を連想する設定。
また、絵本『ブロンコ』をリカに読み聞かせてあげるくだりなど、子どもが本にどう関わり始めていけばいいのか、本の世界への入門を実演している小説としても価値があると思った。
それから、夏休みを舞台とした本作は、最初から最後まで、イギリス都市部の湿気の多いうだるような暑さに関する描写がとにかく多い。あるていどは夏のエモさのようなものに貢献しているが、どう考えても、それ以上に、現代の酷暑の生々しさを痛烈に伝えていて、良い悪いを超えて、印象に残った。別に気候変動への何らかの訴えを読み込むのが自然な感じでもない。
