『午後のチャイムが鳴るまでは』阿津川辰海(2023)
~本書を読んだ経緯~
ケメルマン「九マイルは遠すぎる」を読む
→以下の論考記事を読む
→記事内で紹介・言及されていた『午後のチャイムが鳴るまでは』に興味を持つ
※わたしは(ミステリは嫌いがちですが)ウミガメのスープが大好きなので、それに似ていると言われると弱いのです。
『九マイル~』は1冊ぜんぶ読み終えてから感想を投稿します。
2025/3/5〜8
3/5(水)
第1話 RUN! ラーメン RUN!
2021年、コロナ禍の最中の物語。生徒会長は女子かと思った。
「まとまりつく」がひとつの文に二度入っているの変では?? 文章がちょっと拙いような
高校生男子の一人称叙述の、軽いラノベ的な文体ではある。
深夜に読むんじゃなかった〜 お腹空いた
会長が名探偵役で、語り手たちが犯人の倒叙ミステリだったのね。
靴の泥はねや付けっぱなしの髪留めに気付かないなど、「完全犯罪」にしてはあまりにガバガバだが、そのゆるさが狙っている青春なのだろう。しょうもないことに全力を注ぎ、しょうもないミスで失敗する。位置情報クーポンも分かりやすすぎる。
マチトムみたいな雰囲気で好きは好きだし、最後の会長のオチも爽やかで後味は良い。文章のノリがちょっとキツいのだけなんとかならんかな。。
ユーキの苗字か、会長の氏名になにか謎があるのかな 苗字が同じだから下の名前で呼ぶ?
第2話 いつになったら入稿完了?
やっぱり文体がキツい…… 児童文学ならいいんだけど、もう少し年齢高めのラノベ文体だからなぁ
文芸部の締め切り直前徹夜合宿。楽しそうだけど、顧問の先生まで当直しないといけないの可哀想……
編集長もさとし君もいい奴だなぁ こんな人たちと文芸部やれたら楽しいだろうな
あ、タイトルの「午後のチャイムが鳴るまでは」てそういうことか。各短編すべてが、それに準じた内容になってるのか。
これ部長=生徒会長? 各編の登場人物が時を同じくして交錯する学園群像劇。これユーキの妹も出てくるよな。
やはりトリックや伏線は杜撰で馬鹿馬鹿しいものだが、おはなし自体はよくまとまった良い話だ。最後にセルフ・響け!ユーフォニアムの目隠しオーディションみたいなこと始める編集長には笑った。
3/6(木)
第3話 賭博師は恋に舞う
毎週木曜の昼休み、男子たちがこっそり開催する消しゴムポーカー賭博。ノリが完全にマチトムの音楽室野球や3Dボウリングなんだよな
部活とかでなくとも小教室を予約して抑えられるの良いな〜
使用感による差異がかえって深読み要素になるのか。イカサマし放題では。
立てて置くから余計に麻雀っぽいwww わざわざ消しゴムという立体物でポーカーをやる意義が出てきてるのオモロい。実際の画を見たいな
マサぜったい定期テストで落とした時に茉莉さんと消しゴムすり替えただろ!
すげぇホモソーシャルで笑っちゃうけど、こういう馬鹿馬鹿しい男子ノリ好きなんだよなぁ……
なるほど〜 誰かと組んで互いの持ち札(消しゴム)に目印を付けてイカサマすれば、一気に有利になる。しかも持ち札によって組む相手の相性まで変わる戦略性がある。おもしろい
というか、その仕掛けを成立させるために、自分で交換する札を選べるというガバガバルールにした。
消しゴムがたくさん並んでる中から匂いでどうやって一瞬にして嗅ぎ分けるんだ。無理だろ
ミステリの決め台詞に傍点付けまくるのって本当にイタいんだなと痛感している
裏切られたのにそんなあっさり赦し合えるか? 作り物めいた「男の友情」。わざと薄っぺらいコメディに振っているかんじ。
3/7(金) p.226〜
右手首に腕時計をはめてるってことは、やっぱりマサが第1話の生徒会長にして第2話の文芸部部長か。部長は2年生らしいし。完璧超人カリスマ男子名探偵やん。ムカつくな〜 複数の活躍をいかにこなしたか、というアリバイ時刻表トリック的なものが根幹にあるのね。
いちおう出来の悪い叙述トリックではあるか? 作中人物に対するトリックはほぼ存在しないし。何とは言わないが、連作短編の全てに登場していた者が実は同一人物だった仕掛けは最近他にも読んだので……。
安っぽさが「青春」感に繋がるという、よくあるコンセプト。
失恋の儀式。最後のほうのホモソ感ヤバかった。クラスの「マドンナ」を触媒にして盛り上がって、クラスの男子同士の絆を深める。
3/8(土)
第4話 占いの館へおいで
その茉莉が主人公=一人称の語り手。いきなりの九マイルオマージュ宣言。
>星占いでも仕方ない。ましてや木曜日ならなおさらだ。
茉莉の双子の兄って1話のユーキかよ!! あの妹が茉莉だったのか。妹が30分早く家を出るのも、会長が朝喫茶店に行くのも、ささやかなデートのため。
「これでも成績は良いんだから。そうだなあ、例えば……何か、適当な文章を出してみてよ。そこから色々推論を広げて、思いがけないところに連れて行ってみせるから」 p.270
草 直球で九マイルをぶちこんできた
彼氏を「ボーイフレンド」と言う女子高生……
何気なく聞こえた独り言が実際の犯罪に繋がるところまで本家通りだが、彼女らが推論していなくとも、すでに犯罪は露見していて犯人の処罰が決定している点は異なる。学生なら仕方ない。
つまり、本家はたわいない机上の戯れから始まって実際に現実世界の犯罪事件に対して有効に活躍するとこまでいくが、こちらは実際に聴いた声から始まって、すでに解決した犯罪事件に行き当たり、間に合わなかったがゆえの徒労と、それによる不要さ=しょうもなさが強調される。
しかも、彼氏のLINEさえ見ていれば解答が分かったことから、二重に推論行為の必要がなかった。それでもその何にも結びつかない徒労をこそ肯定する態度が青春であり、彼氏の凄さの理解、というかたちで一応意義を見出す。
にしても、「星占いでも仕方ない」を3人は「星占いでも目的に関して有効ではないから占いを利用はしない(できない)」という風に解釈して推論を進めていたが、自分がこの一文から受け取る印象は違った。「本当は他の占いが良かったけど、目的を達成するためには、妥協して星占いでもやってもらうしかないか」と、むしろ占ってもらう方向に読むほうが自然に感じる。そのため、推論の大半に納得が出来ていなかった。そういう点まで本家と同じなんだけど……
ここであらためて、そもそも本書を知るきっかけとなった論考の該当部分を読む……
この短編が本家「九マイル」と異なっている点は前述した「論理の飛躍」だけではありません。これは強調してもしたりない部分だと思います。
というのも、語り手が冒頭で出会うフレーズは、会話文でも通話文でも放送文でもなく、だれにも向けることのない、純粋な「独り言」として登場しているからです。
本家は会話の一端だったんだよな。確かに独り言であることは重要か。とはいえ、あの状況で本当に独り言だったかなんて確定できないと思うが…… とりあえず独り言であると作中では設定している点に注目する価値があるのはそう。
もちろん「占いの館へおいで」で生まれた「独り言」については、発話者が誰にも聞かれると思っていなかったから「真」であると仮定され、そのまま推理の俎上に上げられるようになっています。これは『獄門島』のあの台詞が発せられたのと同一線上のシチュエーション・趣向として謎を扱いたかったための状況設定といえるでしょう。あるいは、無意識に出た言葉こそ真相を言い表している、という価値観のあらわれともいえます。
長くなりましたが、これらを単純な図式としてまとめるならば、阿津川は「占いの館へおいで」という自作品のなかで、ケメルマン「九マイルは遠すぎる」ークイーン『Yの悲劇』ー横溝正史『獄門島』ー都筑道夫『退職刑事』および『黄色い部屋はいかに改装されたか?』というミステリ群をひとつの星座として見せようとしていたのではないでしょうか。このようなラインをメタ的につなげていく短編として、この作品の問題文は設定されていたのではないしょうか。
横溝もクイーンも都筑道夫も読んだことないのでよくわからん!!
もちろん発話者「X」がもくろんでいたのが「犯罪」であることは「九マイル」的なお約束としてよいとしても、「交換殺人」からイメージをずらして「替え玉受験」と一足飛びに連想し、それが結論として採用される過程には違和感をおぼえます。なぜならそのように裁定されるのは、あくまで本文テクストのなかで「週単位」でおこなわれるイベントが「専門学校のAO入試」しか積極的に記述されていない、というメタ的な物語の要請があったためだからでしょう。
記述が存在するということと、その記述に重みがあると判断できてしまうことは、似ているようで、まったく領域の異なる出来事です。ですから本作の謎解きは推論や連想というよりはむしろ「伏線回収」の手続きと呼んだほうが穏当ではないかと思います。
「推論」パートとは別に、そこで辿り着く真相に関する重要な情報があらかじめ記述されている点で、「伏線回収」モノといったほうが適切。……確かに!!
この短編に限らず、この連作短編の群像劇が全体的に「伏線」散りばめまくるコンセプトだからな……
この短編がラストに迎える大オチは、語り手を含むメインの三人ではなく、べつの人物もまた謎を解いていた、加えてたった「六分間」で結論まで検索しきっていた、というものでした。当然、ここで強調されているのは、超人的な名探偵像だと思います。
けれども個人的には、前提となるべき情報や常識を完全に共有できていないはずの複数人が、なぜかまったく同一の論理操作をおこなったうえ、同一の結論にたどり着いてしまっている、というシンクロニシティのほうにより強烈な「ねじれ」をおぼえます。このような事態においては、もはや探偵役によって送られてきたURLの内容が推理の正しさを裏づけているかどうかは些細な問題でしょう。しかし作者の筆致からは、この状況をさほど疑問視していないようにも感じられるのです。
じっさいは無秩序であるはずの個々の連関が、作者と名探偵の(見えない)共謀によって権威づけられてゆくこと。そのような意味では「九マイルは遠すぎる」も「占いの館へおいで」も変わりません。というよりミステリというジャンルは、多かれ少なかれそのような権力的構造を不可分に抱えているものだと思います。
にもかかわらず、です。わたし個人が後者にのみ感じる、この、不自然に澄みきった水のような、得体の知れなさはなんなのでしょうか。
シンクロニシティの異様さ。言われてみればなるほど確かに? 本書に限っていえば、ある高校のある日の昼休みという同じ時空間を舞台に設定して、相互に交錯して繋がり合う「伏線」を満載した「群像劇」をコンセプトにした作品なので、その不自然なほどのシンクロニシティは必然的なものではないかと擁護?することはできそうかな。……別に擁護しなくても全然いいんだけど。本書の名探偵の全能感とヒーロー性がキモすぎるのはマジでそうだし。
なぜ阿津川辰海は、あえて意図的にフェアネスを崩してしまう程度には、名探偵に超人的でさえある物語上の権能を与えようともくろむのでしょうか。その理由が世代差によるものとして回収されうる話題なのか、それともまったく異なる要因によって起きているものなのか、いまだわたしはうまく言語化できずにいます。
単なるエンタメ創作上の趣味や手癖や戦略なのでは? 知らんけど。
せっかく安っぽさや馬鹿馬鹿しい必死さを全面に押し出した「青春群像劇」として、豊かで狂騒的な時空間を創造せんとしているのに、それをひとりのヒーロー=名探偵が暴力的に「伏線回収」してしまうことの勿体なさをわたしは非常に感じる。ポリフォニーがモノフォニーに堕ちてしまうというか。
伏線回収のフェティシズムと、超人的な名探偵というフェティシズムには明らかに連続性がある。これらが共謀して本作を影から支配している。
単行本書き下ろしの最終話でこれまでの伏線をぜんぶ回収して大団円なるんでしょ? 萎えるわ〜
第5話 過去からの挑戦
やっぱり生徒指導の森山も重要な人物か
菅原ナオマサ? マサナオ?
正直、だった。
オーストラリア在住の推理作家……?
三森さんと同級生? 天文台から消えた少女?
このロシュフーコーの箴言、最近別の小説でも言及されてたような…… 「太陽も死もじっと見つめることはできない」
子ども2人を置いてオーストラリアへ移住する親すげぇな。べつに仕事上の必要とかでもなく。
親と暮らすため海外転校するから消えたのか
怒涛の菅原正直くん活躍披露パート
森山が買い出しに外出してるあいだに三森が新聞記事になにか細工をした。なんだろう
とりあえず、推理小説において強調の傍点を使うことを法律で今すぐ禁止してほしい
消しゴムポーカーとっくに森山にバレてたのね。健気でかわいいから見逃してあげたくなるよね
34歳独身──ワンチャンある?
30を過ぎても2人とも独り身だったら、俺たち結婚しよう──
ここで時差トリック! 日本にいながらにして。
昼休みの時間をめいっぱい使って、1時間あけて消失事件は二度起こっていた。おもしろい真相。バラバラなものが一つにまとまるだけでなく、逆に一つだと思われていたものが複数に分かれるオチ。大袈裟にいえば──ポリフォニーの復活? まあ、最初のは偶然だったとはいえ、同じ人物がそれを利用して作為的に次の消失トリックを作ったのだから、やはり一筋の合理によって統制されているといえるか。
"天空の花嫁" ってこと?
「君の中で解けない謎になってやろうとしたの」 p.368
自覚的・意図的な人工ファムファタル!
なんで34歳ふたりがこの高校でいちばん青臭い青春してるんだよ
「お母さんとそっくり」なのもヘテロ男性2次元オタク的な発想で気持ち悪いんだよな〜
くっついとるやんけ!!!!! おい!!!!! 生徒は失恋したんだぞ!!!!!
クライマックスの総まとめ文章嫌いすぎる。なんだよ「光」って。ひとりの生徒(キャラクター)をどこまで名探偵として神格化すれば気が済むんだ。
作者あとがき
えっ!?!?!? 各話タイトルってマチトムからの引用だったの!?!?!? 言われてみればそっか〜〜〜 「賭博師は夢に舞う」=『怪人は夢に舞う』じゃん!!!!! 18巻の『未来からの挑戦』は未読なので気づけなくても仕方ないけど。
読みながら何度もマチトムを連想して言及したのに、最大の「伏線」をみすみす見逃していたなんて………… わたしの負けだ。マチトム再読します。
でも、やっぱり、明確にマチトムを意識してたんだな。あれを青春「ミステリ」と呼べるかは怪しいところだけど……
マチトムはもちろんオールタイムベスト小説に入っています。
数年前に14・15巻を読んだときの感想↑ 音楽室野球……最高!!

