『ヴァインランド』(7)トマス・ピンチョン

hiddenstairs.hatenablog.com

 

やや時間が空いてしまいましたが、12章をやっと読みました。

 

 

12章 (pp.315-383)

 

<あらすじ>

(フレネシに撃たれて?)サナトイドとなったウィード・アートマンの遍歴

84年、カリフォルニアの北の奥にある心霊スポット〈ブラックストリーム・ホテル〉にて、年に一度の宴「サナトイド・ロースト'84」の第10回が進行中。幾世代にもわたる因果応報のパターンが立派なサナトイドを"顕彰"する。

そこで演奏する即席バンドのベースはヴァン・ミータ(ゾイドの元バンド仲間の相棒)

 

このときゾイドはホリーテイル近くの谷あいのマリワナ農家の知り合いの家に滞在していた。
ヴァインランド群のシェリフ(保安官)ウィリス・チャンコが難攻不落のホリーテイルを潰そうとするが守備網は堅い

その牙城を崩そうと、CAMPが雇った元ナチス・ドイツの空軍士官カール・ボップ率いる偵察部隊の飛行機がヴァインランドの空を舞う

そこに「忍びの者(ステルス・リグ)」の異名を取る特殊改造トラックがやってきて、ヴァインランド群じゅうの家庭に物語を語り聞かせられるオウムを売りさばいた。
<キューカンバー・ラウンジ>裏手にあるヴァン・ミータの賃貸小屋でも子供たちがオウムに熱狂し、その超常体験に参加できなくて焦りながら今夜もギグへ向かう(ここで話がサナトイドの宴に戻る)

 

常人とは時間の流れが異なるサナトイド達の宴は夜が深まるほどにスローテンポになっていき、ヴァン・ミータらのバンドは演奏に困る。

昔CMで見た覚えのある歯科医ラリー・エラズモ博士(宴に迷い込んだ)と会ったウィード・アートマンは、生前サーフ大学での最後の日々をおぼろげに思い出す。

エラズモは当時ウィードにつきまとい、半ば強制的に旧市街のオフィスへ呼びつけて怪しい診察を繰り返していた。(ブロックの陰謀)

〈ロックンロール人民共和国〉の長としてますます崇められるウィードと、BLGVNの残党に会うためパリへ行こうとしているレックスは次第に決裂していく。

ウィードがFBIのスパイだったと自分から言った、そうフレネシとレックスはハウイ(秒速24コマの男子)に語る。

もちろん、それはフレネシを操るブロックの陰謀である。ブロックからフレネシに渡された銃でレックスがウィードを撃つ。その決定的な瞬間をカメラは逃していた。

包囲された〈ロックンロール人民共和国〉は自壊する。たった3名の残党DL、ハウイ、スレッジは車(シボレー・ノマド)でブロックに連れ去られたフレネシを追う。ハイウェイを疾走して収容施設にDLは潜入、地下のオフィスで夢を見ていたフレネシを速やかに奪還する。バークレーに戻り男2人を降ろし、2人はメキシコの太平洋沿いの漁村キルバサソスへ。DLとフレネシはブロックの件で口論する。ドラッグを投与されて操られていたとフレネシは主張して慈悲を乞う。

その後、合衆国のラス・スエグラスでDLは彼女を降ろして別れた。そこでゾイドはフレネシと出会ったらしい。

 

ようやく話は現在時制、フィルムを観終わったプレーリー、DL、ディッツァの3人へ。ディッツァが双子姉妹のズィピから電話を受ける。田舎に引っ込んだが再び占星術に舞い戻ったミラージュ曰く、冥王星の逆行が滞っており不吉らしい。実際、ハウイがコカインで命を落としたのを筆頭に、〈秒速24コマ〉のメンバーらが次々と理由なく姿を消している。

DLは編集作業場に仕掛けられたに安物の盗聴器を見つけ、直ちに安全な場所へ避難することを決める。3人を乗せた車は夜のロスを疾走する。

 

 

<感想メモ>


オウムのしゃべる物語を聴きながら眠りについた子供たちが夢の国の熱帯林で落ち合って、木々の上すれすれを一晩中飛び続けるってめちゃくちゃ良いエピソードだな。

 

フレット:ギターの腕に横にいくつか付けられた金属の棒のこと。これに弦を抑えつけることで特定の振動数=音程が鳴る

これをヴァン・ミータは外したと。そりゃあ音程も何もあったもんじゃないわな。でも決まった音色から自由になってフラフラ飛び回る感じはまさしくピンチョン的でいいなぁ

 

歯医者といえば『V』の手術シーン!!!

 

p.332
これがほんとのカーセックス
アーンド愛車NTR

 

めちゃくちゃ甘ったるく感傷的な筆致だ・・・「革命に燃えていた若かりし自分たち」へのノスタルジーがすごい

郷愁というか、リアルタイムで自分たちの理想が破れていく敗北の美学みたいな
その回想を、自分たち(プレーリーからすれば母親)が撮った映像フィルムを観るという形式に収めて語るので、より一層魅力が増す。フレネシの照明・光周りの表現も多彩で、きわめて映像的な文章

 

アクロバティックかつシームレスに、語る年代や人物やシーンをスライドさせていく手法には『JR』っぽさも感じる。

 

〈秒速24コマ〉の常套句「ビー・グルーヴィ、でなきゃBムーヴィ」 めっちゃ良いな!!!

 

368
フレネシがよく見ていた高潮に沈む町の夢とても幻想的で美しい。
そこから現実のDLとの再会に繋がるのもめっちゃアツい。フレ×DLしか勝たん

 

373, 375
ピンチョン、ふざけたハイテンションでカオスな文体もあるけど、それを支えているのは正統的に上手い文章なんだよな。まじで普通に文章がめちゃくちゃ上手い。

 

375
長時間白熱した映像を観終えたプレーリーの心境を「LAレイカーズの試合後のバスケット・ボールのよう」と喩えるセンスすげ〜
的確よなぁ

 

 

あと3章、170ページ!!!

 

 

どうも、命知らずの猛者です。 
これら4冊のうち読み切れるのは果たして幾つなのでしょうか・・・乞うご期待!!!

今のところの読み易さは順に

ブラス・クーバス>>コレ愛>>>ヴァ>>>>夜みだ

です。

(ヨイヨルさん主催の毎週末読書会が無ければヴァインランドもとっくに投げ出していました。ほんとうに感謝しています)

 

 

 

 

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 もちろん買いました。何年も待たされたことはもちろん、ガイブンを読み始めて以来、初めて体験するピンチョン邦訳出版なので非常に感慨深いです。が、まだまだ読むのは先になりそう・・・・・・