『ヴァインランド』(3)トマス・ピンチョン


 

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続き

 

4章・5章まで(約100ページまで)読んだ。

 

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https://vineland.pynchonwiki.com/wiki/index.php?title=Chapter_4

 ヴァインランドwiki

 

4章 pp.54-83

 

なんとか借りられたのが「リトル・ハスラー」の異名をもつダットサンの小型トラック。近くに住むトレントがキャンパーに改装したものだが、そのつくりがユニークで、コーナーリングのハンドルさばきが大変そうだった。「だいじょうぶだよ、ただね、ガソリン表示が満タンと空っぽの間のときは、右折と左折は控えたほうがいい」などとトレントは真顔で言うのだが、問題がキャンパーのほうにあるのは明白だった。 p.54

全然大丈夫じゃねえ!!!


ダットサンって何かと思ったら日産のブランドだった)

vineland.pynchonwiki.com
ピンチョンwikiに画像あった。ヤバww

 

 

トレント=詩人兼画家


まさか2章で言ってた近隣のヴェトナム帰還兵がほんとうに登場するとは
亭主RC、連れ合いムーンパイ、子供たくさん。川でザリガニを獲って稼ぐ
ゾイドとは70年代はじめ以来の付き合い(長っ!)

 

実をいうと、ゾイドがムーンパイに出会ったのは、フレネシとの離婚が最終的に決まった晩のこと──それは同時に、ある意味、離婚の取り決めと一緒に盛られた協約にしたがって、彼が最初の窓破りを敢行する前の晩のことでもあった。 p.55


ギグって小規模な演奏会(ライブ)のことか。

 

 

「フレネシ・マーガレット、ゾイド・ハーバート、汝らは、困難の日々も幻覚の日々も、ラヴという名のグルーヴィなハイに留まることを誓うなりや……」式は数時間も続いたのかもしれないが、三十秒で終わったようにも思われた。そこでは誰も腕時計などしていなかった。メローなるシックスティーズの住人は、デジタル以前の、TVによってさえ切り刻まれていなかった時の中を、ただゆったりと流れるように生きていただけ。この日のことは、後のゾイドの記憶にソフト・フォーカスの映像として焼きついた。 p.58

ノスタルジック〜〜〜
いかにゾイドが過去に囚われているかが分かる
こっちまで感傷的になる

 

野外の宴が続く間、花嫁はしずかな微笑みを保っていた。当時からスキャンダラスなほど青かった瞳が、ふんわり大きな麦藁帽の下で燃え立つのがゾイドの脳裏に焼きついた。小さな子供たちがフレネシの名を呼びながら駆け寄ってくる。演奏の休止時間、ふたりはイチジクの木の下のベンチに腰を下ろした。フレネシはコーンに盛った七色のフルーツ・アイスを舐めていた。祖母が着て母も着たウェディング・ドレスに、溶けたアイスの雫が垂れないようにと前屈みになってペロペロやっていたのだけれど、そのアイスは不思議と色が混じり合うことなく、いつまでもくっきりとした原色を保っていた。そのライムやオレンジやグレープ色の冷たい雫が、どこからともなく現れた三毛ネコの背中にかかる。ネコは驚いたかのようにミャウと鳴いて、土の上で体をくねらせ、狂ったようにクルクル目玉を動かし、全速力で向こうへ走っていっては戻ってきて雫を浴び、それを一からくり返していた。 pp.59-60


なんだこれ・・・感傷マゾのオタクが死ぬ間際に見る夢か!?!?


ルネ:フレネシの従妹。長身でド派手。LAに住んでいた


なんだか一気に話が急展開したな。
えーと、よーするに、フレネシをゾイドから奪ったワシントン連邦検察のブロック・ヴォンドがなぜか今になってゾイドの家を強襲し差し押さえた。
で、TV中毒者ヘクタがフレネシを追うわけは、60年代の不法薬物乱用についての映画を彼女に撮らせるためである、と。
(フレネシはバークレー大卒の映像作家)
家もなくなり娘プレーリーの身も危ないので、彼女はボーイフレンドのイザヤ達バンド御一行に預けることにした。

 

「ひとつ合点がいかないんだが」仏教徒に囲まれてテーブル上に立ち往生している麻薬捜査官にゾイドは訊ねた。「なんでまた、ブロック・ヴォンドの軍団が、今になってオレをいじめにやってくるのよ?」
吟唱がピタリと止んだ。まるで、これから主役のアリアが始まるかのように、みんな静かにヘクタを見上げる。頭上のステンドグラスの模様は、八つに切り分けられたピザのマンダラ。太陽の光によって、まばゆい深紅と金色に染まるそれが、近づく車のヘッドライトに、サッと一瞬、不気味に色づく。 p.77

 

仏教徒に囲まれてテーブル上に立ち往生している麻薬捜査官」の時点ですでにカオス度が振り切れてるけど、ピザマンダラのステンドグラスでとどめを刺された。降参降参

というか仏教徒の健康志向のピザ屋さん〈菩提達磨〉って何やねん。プレーリーのバイト先、癖がありすぎる。

 

このときである。〈菩提達磨〉の表と裏の入口から、NATO軍の迷彩模様の軍服を着たTV解毒隊が押し入ってきた。兵士らは男も女も、甘い言葉でなだめながら、ヘクタの手を引き、「きみを救ってあげられる場所へ」連行すべく、ふたたび吟唱を始めた〈菩提達磨〉の仏教徒らの間を抜けてドアに向かった。ドクター・ディープリー、顎ヒゲを撫でつけながら大股でやってきてバーバ・ハヴァバナンダとハイタッチ。
「いや、助かりましたよ。ウチのほうでできることあったら何なりと──」
「あの男がしばらく出没しないようにしてくれれば、それが一番だね」
「そりゃ保証できませんな。ウチのセキュリティは実に貧弱で、観察つきにしておくので精一杯。本人がその気なら、一週間もせずに外を飛び回ってるでしょうな」
「制作契約、成立じゃい!」解毒隊の護送車に積み込まれながらヘクタはなおも叫んでいる。その護送車が猛然と走り去ったのと交代に、ヴァンに乗って猛然と走りこんできたのがイザヤ君と仲間たち。 pp.79-80

 

ここのスピード感もすごい。「NATO軍の迷彩模様の軍服を着たTV解毒隊」とか「レストランで吟唱を始める仏教徒」とか「60年代ドラッグカルチャーの映像制作に固執するTV中毒の麻薬捜査官」とか「娘のボーイフレンド率いる荒くれ若者集団」とか、濃い面子の頂上決戦か?ってくらい。(最後の若者集団が相対的に存在感薄いと思ってしまうのがヤバい)

 

 

 

 

 

4章おわり。

 

ちょっと待って……めちゃくちゃ感動するやんけ……
プレーリーとのやり取りの最後数ページ、すべて完璧すぎて引用しきれない。


とりあえず帯にも載ってるこれを

「マリワナばっか吸ってんじゃないのよー」去りぎわに娘が放つ。
「股をきちんと閉じてるんだぞー」父が返す。
p.83

そういや、この帯文を見てヴァインランドめちゃくちゃ面白そうだと最初に思ったんだっけなぁ……
父と娘の一時の別れ。直球なテーマを直球にいい文章で描く。
その気になればいつでも感動させられるんだぞ、という圧倒的な筆力を感じる。

トレーラーで親子最後の夜を過ごすときの、二段ベッドによる空間的な2人の位置関係とコミュニケーションの流れとかマジで完璧。

ここまでで、やっとイントロが終わって、ここからが本番の予感

 

5章(p84.-p.101)

 

いやこれ凄いな。


「別れ際にゾイドは、とある偶然から日本人を助けたお礼にもらった名刺(お護り)をプレーリーへ渡した」という、その日本人との出会いをこの章まるごと使って語るわけだけど、脱線に次ぐ脱線……というか、そもそも日本人とのエピソードを目指して話が進んでいるとは微塵も思わせないほどサイケでポップでスピーディなストーリーテリング。語られるエピソードがいちいちカオスでフザケていて最高。


ゾイドとフレネシが離婚する前日譚も描かれるのだけど、なかなか無慈悲というか、前章でゾイドが懐かしんでいた結婚当時は本当に「2人の関係の絶頂」であって、あとは陰鬱たる地獄しか待っていなかったんだなぁ……まぁ一時的別離といいながらハワイまで追いかけるのは普通にヤバいと思うが(しかもホテルの隣の部屋!)

 

その後にゾイドシンセサイザー奏者の職を得るカフーナ航空のエピソードも馬鹿馬鹿しくはっちゃけていて最高
高度1万メートルで謎の飛行物体が接近して接合し、謎の部隊がドカドカ入ってくる(しかも機内はハワイ風のクラブハウスで乗客は皆ぐでんぐでんに酔っ払って踊り狂っている)とか、マジでそれ書いてんの?って話がずっと続く感じ。

 

ブギに踊り狂い、あるいは脱力発作に襲われている客を、侵入した隊員たちは調べて回っているが、ここでウクレレを掻き鳴らしている男のことは眼に留めるふうでもない。さらにゾイドは気がついたのだが、最高音のBフラットを鳴らすたび、侵入者たちが無線受信に支障をきたしたかのように、ヘッドフォンを両手でつかんで耳に押し当てるのだ。そこでゾイドは可能な限りそのキーを押し続けてみたのだが、そしたらじきに彼らは、うつろな当惑をあらわにしてジャンボ機から引き上げていった。 p.100

常にツッコミ待ちで大真面目にフザケ倒しているから、こっちも大真面目にツッコミまくれる


名刺をくれた日本人の名は、タケシ・フミモタ(調整師)
「フミモタ」の、「外国人が頑張って考えた日本人姓」感がいい。「フミモト」を英語話者が聞くとこう聴こえるのかな。

ここまで読む限りヴァインランドは、『V.』や『重力の虹』のなかのポップなドタバタパートだけを抽出してきた感じで、要するに超自分好み。
ただ、初期長篇は、シリアスでお硬いパートがあるからこそドタバタパートがそのギャップでより魅力的に思える面はあって、本作ではそのギャップによるバフは無いため、どっちもどっち説もある。
まぁ自分はピンチョン作品にお硬い文学性はそんなに求めていない一般読者なので、今のところ一番のお気に入りになりそう

ピンチョンが難解とか言ったやつ誰だよ!世界一面白くフザケた小説を書く作家の間違いだろう

 

 

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ヴァインランド (トマス・ピンチョン全小説)