「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」柴田勝家

 

 

 
サークルの課題図書なので読んだ。20ページほどの短編
(上記Kindleではなく初出のSFマガジンで読んだ)
柴田勝家さんの著作を読むのは初
 
特段にこき下ろす点もないが、ほとんど加点する箇所もない、無味乾燥の習作といった感じだった。
劣化ボルヘスか劣化円城塔か。
要は「マトリックス」や水槽脳や、作中で言及されるメアリーの部屋やオリバー・サックス「色のない島へ」の問題設定の焼き直しであり、それらの先行例から特に進歩した興味深い内容は無かった。VR Chat利用者の実態を調べていったほうがよほどセンスオブワンダーを感じられそう。
「現実を相対化する」という、フィクションや思想史において何度も何度も扱われ掘り下げられてきたテーマに対して、本作が提示できた革新性は皆無といってよい。
 
詰まるところ、本作の新規性は「中国の山岳地帯に暮らす少数民族」と「VRヘッドセット」という遠そうな二者をくっつけたら面白いのではないか、という素朴な発想オンリーであり、確かにその発想はまぁまぁ面白いが、タイトルを読んで感じる表層的な興味深さと、実際に読んでの興味深さがほとんど変わらない。最初のワンアイデア以上の代物ではなかった。
 
語りや文体も、論文調を標榜する割には全然アカデミックではなく、そこらへんの学生がブログに書いてそうなレベルの文章だった。論文形式を採るんならもっとガチで難渋に難解に堅牢に書いてもよかったのでは。
 
唯一面白かったのは、死者を埋葬する際に数十年装着し続けたヘッドセットを取り外すときの描写である。
ヘッドセットに絡んだ髪や同化する皮膚、垢などを慎重に除去する描写には、ヘッドセットとともに有った人の生の質感がわずかに表現されていた。
この辺りをもっと丁寧に掘り下げてほしかった。
 
ワンアイデアとしてはそこそこ面白いので、これをワンアイデアの短編で終わらせず、部外者による報告調の論文形式でもなく、スー族の集落である程度の時間を過ごした者を主人公とした物語として読んでみたい。
もちろん、スー族自身による語りではなくアメリカの研究者による報告調にした必然性(スー族が生きるVRの世界が読者には判然としない点に現実の相対化というテーマが導かれる)はわかっているが、それが大して面白くなかったので別の方向性で読みたい。
 
論文と小説(物語)の差異みたいなものについては、今度のSFマガジン異常論文特集号とかを読むとより理解が進むかもしれない。
 
あと、本作では柴田勝家さんの真の筆力が発揮されていないであろうことは感じられるので、機会があれば長篇にあたりたい。(行けたら行く構文)
 

 

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